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【Travel】ニューヨークで朝食を | 東京フィル100周年記念ワールドツアー

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2014年3月、東京フィルハーモニー交響楽団が、創立100周年記念ワールドツアーを敢行した。

東京フィルは、103年の歴史を誇る日本最古のオーケストラ。サブカルチャーとのコラボにも積極的な、一流のエンターテインメント集団でもある。日本の音楽史に新たな一歩を刻もうとしている彼らの決定的瞬間を、見逃すという選択肢はなかった。

ニューヨークを皮切りに、マドリード、パリ、ロンドン、シンガポールバンコクへ。2週間をオーケストラとともに旅して深く確信したのは、自らの音楽に対する愛そのものだった。

なによりも大切な愛に気づかせてくれた旅だった。

報告書の抜粋とともに、バックステージもまじえた旅の記録をふり返りたい。

 

 ニューヨーク、リンカーンセンター。音楽好きなら誰もが憧れる美しい噴水とオペラハウスのそばに、アリス・タリー・ホールは位置している。

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東京フィルハーモニー交響楽団 創立100周年記念ワールド・ツアー――世界へ向けて“日本の音”を発信し、日本の音楽史に新たな一歩を刻もうという試みは、その場所から幕を開けた。

3月11日。一気に春がやってきたかのような、快晴のブロードウェイ。会場のホワイエに足を踏み入れると、そこかしこに赤いラナンキュラスが咲いている。東京フィルのロゴマークにもある赤い丸を花で表現した、粋な演出だ。

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午後6時を過ぎ日が陰ると、ドレスアップしたニューヨーカーたちが集まり始めた。在米邦人も含めたおよそ1000人の観客が醸し出す華やかな雰囲気が、ハレの場を一層盛り上げる。

午後7時半、開演。日本を代表する作曲家・黛敏郎による「BUGAKU」の冒頭、弦楽器の音色が笙のように鳴り響いた瞬間、会場が息をのむような驚きに包まれた。雅楽の要素を取り入れたバレエ音楽「BUGAKU」と、民謡や祭囃子がちりばめられた「管弦楽のための木挽き歌」(小山清茂作曲)。日本人にとっても、驚きとともに懐かしさを掻き立てられる2曲は、大興奮で歓迎されたのである。休憩時、「僕は和太鼓が好きだ。ダンスしたくなるよね」と声をかけてくれた人もいた。ノスタルジーという感情は、だれもが共有できるのだ。

渾身の後半の大曲、「春の祭典」(ストラヴィンスキー作曲)への喝采は鳴りやまなかった。アンコールでは、星条旗を羽織った指揮者・大植英二が指揮棒を客席に投げ込むロックな演出も。

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そうして終演後のレセプションは、三木谷理事が興奮気味に語る「春の祭典が、春を連れてきた!」の言葉ではじまった。

会場にはコロンビア大学のルーシュ名誉教授やヴァイオリニスト五嶋龍さんらのほかに、福島から音楽大生が駆けつけ、楽団員とともに復興支援ソング「花は咲く」を演奏。その模様は、「ニューヨーク・タイムズ」や「フィナンシャル・タイムズ」をはじめとする現地有力紙や、日本の主要メディアで一斉に伝えられた。

本来2011年に行われる予定だったワールド・ツアー。

東日本大震災の発生で順延されていた大事業が、震災から3年目にあたるこの日にスタートすることは、深い意味を持つ。もちろん、復興支援への感謝も込められている。しかし、今回のツアーの主眼にあるのは、日本の文化――ほんとうの意味でのクール・ジャパンの存在感を世界に示し、それを希望につなぐことである。指揮者、ソリストともに日本人を起用したオール・ジャパンの体制と、ニューヨーカーが絶賛した攻めのプログラミングが、それをはっきりと示している。

日本の「ドレミのインフラをつくってきた」東京フィルだからこそできることはなにか――安易な名曲集ではなく、100年の歴史のなかで日本人がつむいできた“音”と“物語”を披露しようという考え抜かれた選択に、一気にゴーサインが下りたのである。

会場にそえられた赤いラナンキュラスは、幸福の象徴でもある。故郷に思いが届くこと、そしてこれからつづく5か国での公演が同じように成功を収めることを心から願い、初日を終えた。

(「ワールドツアー2014報告書」初出)

 

その夜のパーティーは深夜までつづき、私は一足先にホテルへの帰路についた。

映画やドラマを通して何度も目にし、憧れつづけたMETを眺めながら、不思議な感慨に浸ったのを覚えている。

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ホテルはタイムズスクエアの近く。周辺はにぎやかだが、リンカーンセンターはじめさまざまな場所へ徒歩で出かけられる好アクセスだった。

朝はもちろん、セントラルパークで散歩。

どこかでアッシュ・リンクスがヘミングウェイ『海流の中の島々』を読んでいそうな、静かな公園(『BANANA FISH』18巻参照)。

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公園をまっすぐ進むと、メトロポリタン美術館がある。ここではコンスタンスの女子生徒が、コーヒー片手におしゃべりしていそう。

ということで、美術鑑賞のあとはアッパーイーストの名店へ。

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ブレア・ウォルドーフ(『gossip girl』/左)が手にするコーヒーと、おいしいペストリーでブランチをいただいた。“チャック・バスの所有する”パレス・ホテルも臨場感たっぷり!

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ヘンリベンデルでは、『gossip girl』仲間の妹などへお土産を。店員さんが私のイメージで選んでくれた薔薇のキャンドルは、このあとの旅の優雅なおともになった。

旅立つ直前、ずっと近づけなかったニューヨーク市立図書館を訪れた。

ライオンの像が見えた瞬間、たまらなくなってひとりで泣いた。

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 James Wall Finn(1866-1913)の手による天井画。あまりの美しさに涙が止まらなかった。

「……戻ってこような、この国へ」

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さよならN・Y…

ぼくらはまたきっと会える どんなに遠く離れていても

君はぼくの最高の友達だ

吉田秋生BANANA FISH』)

 

マドリード編へつづく) 

 

 

 


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