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【Travel】マドリードの春 | 東京フィル100周年記念ワールドツアー

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今回の旅、あくまで個人的な裏テーマは「プリンセス」(ブレアもその一つ)。ということでマドリードでは、敬愛するレティシア皇太子妃(左)ゆかりの王宮を散策した。

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カルロス3世から代々の王が居住してきた宮殿。1734年に再建したカルロス5世はブルボン家の出身なので、どことなくヴェルサイユ的だった。無造作に飾られたベラスケスやゴヤ、壁を覆う装飾に、シャンデリアの洪水。天使の丸天井のある礼拝堂で、ようやく息をつくほど。中庭に面した回廊と、女王イザベルが朝日に照らされて美しかった。

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スペイン女王イサベル―その栄光と悲劇 (朝日文庫)

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王立劇場と花壇のパンジーを眺めながら、一旦ホテルへ。本番は夜の10時半!

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マドリードはすっかり春だった。吹く風はまだ冷たいが、街のあちこちにピンク色のアーモンドの花が咲き誇り、花壇ではパンジーが笑顔を見せる。

3月14日午後、スペイン国立音楽堂。ウォールナットの木目も美しいヴィンヤード型のホールで、まずは公開リハーサルが行われた。

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ここでの公演は、招聘アーティストによるコンサートシリーズを40年以上にわたり手掛けるスペイン屈指のプロモーター、イベルムジカ財団の主催。リハーサルでは、財団の会員たちが熱心に耳を傾けるさまに、マエストロの指示にも熱がこもる。「BUGAKU」では「十二単の音をください」という発言も。より重厚に響きわたる“日本の音”。終了後には、さっそく聴衆から「素晴らしい!」と声があがった。感動を素直に表現するスペインの聴衆と、その思いを結束につなげていくオーケストラ。成功は、このとき予告されていたのかもしれなかった。

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本番の開演は、夜10時半。当日はホールを本拠地とするスペイン国立管弦楽団の公演のあと、入れ替わりでの登場である。遅い開演に慣れているというスペインでも、珍しい時間帯。しかし、この国の人々の日本への好意はそれを問題としない。客席を見渡しても周囲はスペイン人ばかり。あふれんばかりの期待が、会場を包んでいた。

今夜も「BUGAKU」からのスタート。楽日となる「管弦楽のための木挽き歌」では、弦による樵の音のなかチェロの黒川正三が冒頭のソロを歌いだすと、客席からため息がこぼれた。そしてクライマックスは「春の祭典」。アンサンブルを揃えることが難しいというホールで、綿密に重ねられた音の渦が爆発した。予想を上回る喝采。アンコールの八木節で会場の興奮は頂点に達し、総立ちでの終演となった。

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終演は日付を超えていたが、終電を逃すことを気にかける人はほとんどいなかった。日本人というだけで、取材中の私まで感謝の言葉をかけられるほど、皆が熱狂的だった。同席した在スペイン大使館一等書記官・小川氏は、「スペイン人はあたたかく、駐在していやな思いをしたことなど一度もありませんが……まさかこれほどとは! この1年近くさまざまな日本スペイン交流400年事業に取り組んできましたが、最高のクライマックスです」と語っていた。

思えば日本における西洋音楽の礎は、400年前にスペインやポルトガルの宣教師たちがもたらしたものだ。東京フィルは創立100周年を機に、“日本人によるクラシック音楽の今”を伝えるシリーズを打ち出してきたが、それは日本のクラシック音楽がもはや西洋の模倣ではなく、日本固有の芸術にまで高められたことを明らかにする試みである。日本の西洋音楽のはるかな故郷ともいえるスペイン、マドリードでその集大成を発表し、これほどの成果を上げたということは、歴史的に考えても記念すべき事実ではないだろうか。

楽団員も一様に興奮した様子で、あたたかい聴衆との一夜に酔いしれていた。音楽は、聴衆とつくりだすもの。その事実を思い知らされた、幸福な春の夜だった。

(「ワールドツアー2014報告書」初出)

滞在中は、ゆったりしたスペイン時間のおかげでわずかなバカンス気分も。

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ホテルの近くのスタバにもお世話になった。バリスタも客も、みんな美男美女。そして親切。15年前、大学のサマースクールで訪れて以来のマドリードは、記憶に違わぬあたたかい人々の街だった。

はにかんだ笑顔、ピンク色のアーモンドの花。忘れられない。

(パリへつづく)

 


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