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猫と名前のあれこれ

ネーミングでなかなかはかどらない、ということがよくある。
だからそれを請け負うような仕事もあるわけだが、プロの書き手にも、言葉にこだわる人とそうでない人がいて、いやいやプロなんだから圧倒的に前者でしょ、と思いきや、そうでもない。
新米エディターの頃、「こんな日本語はおかしい、あんまりだ」と赤を入れていたら真っ赤になってしまって、大目玉を喰ったこともある。
編集をやっていて、重要だと思うのは「タイトル」や「キャッチ」のセンス。
人を惹きつけ、かつ甘すぎずセンチメンタルすぎない、ある空気感を目指したいものだ。

猫の名前をつけることは難しい、と言ったのはT.S.エリオット*2。
猫には、3つの名前が必要だという。
まず、家族が毎日使う呼び名。
(ピーター、オーガスタス、アロンゾ、ジェイムズとかヴィクター、ジョナサン 、ジョージあるいはビル・ベイリー。紳士淑女向きなら、プレイトー、アドミータス、エレクトラ、デイミーターなど)
第二に、いっぷう変わって、もっと威厳のある名前。
(マンカストラップ、クウエイホウ、あるいはコリコパット、ボンバルリーナ、 またはジェリローラム)
第三の名前は、人間にはけして思いつかない名前。
猫自身は知っているが、だれにも明かさない。
猫がよくもの思いにふけっているのは、いつも同じ。
謎めいた驚くべき自分の名前について、うっとりと考えているのだ……

この愛すべき詩の日本語完訳としては、『ポッサムおじさんの猫とつきあう法』(池田雅之訳、ちくま文庫)が有名である。
もちろんロイド=ウェッバーによるミュージカルはより人気だが、例のグロテスクなメークと毛皮であの、美しいしなやかな生き物を表現するのはちょっと厭な気がする。
これは猫好きの人と話すと、わかってもらえることが多い。
ポッサムおじさん(詩人エズラ・パウンドがエリオットにつけたあだ名)は明らかに猫好き。
それは次のパラグラフからもよくわかる。

猫たるもの、人間から敬意を表されるのは、
当然至極なこと。
晴れて、願いが叶えば、
ついに猫の名前を、じきじきに呼べる日が、やって来る!

「犬は犬、猫は猫」ということ。
これこそ、みなさんが、猫に話しかけるコツだ。
『ポッサムおじさんの猫とつきあう法』(同上)より

月並みな言い方だが、猫は高貴な生き物なのだ。
それでいて、驚くほど誠実に人に寄り添う。
そういう媚びないやさしさと、彼らとの距離感、彼らといる空気を、私は愛している。

キャッツ―ポッサムおじさんの猫とつき合う法 (ちくま文庫)

キャッツ―ポッサムおじさんの猫とつき合う法 (ちくま文庫)

  • 作者: T.S.エリオット,ニコラスベントリー,Thomas Stearns Eliot,池田雅之
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1995/12
  • メディア: 文庫
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