【Art】幕末クロノロジー! | 江戸東京博物館 特別展「花燃ゆ」
「奇兵隊士武廣遜ほか写真」明治2年(1869)9月/個人蔵
2015年大河ドラマ特別展「花燃ゆ」の内覧会へ(6/17 江戸東京博物館)。
幕末から明治を舞台に、吉田松陰の妹・文と周囲の人々を描いた今年の大河ドラマ。長州藩の久坂玄瑞や高杉晋作ら、松下村塾の門下生たちも数多く登場し、池田屋から禁門の変へと緊迫していくこの時期は、幕末好きにはたまらないクライマックスである。
この展覧会では文や松陰の年代記を追う形で、肖像や書簡や遺品を展示。まもなく「風になる」あの人やあの人やを偲ぶことができる。
プロローグは「文の育った萩」。
そして、「兄・松陰と家族たち」「兄の教えと松下村塾の仲間たち」と章立てが進んでいく。なによりもドキドキしたのは、書簡だった。草書は読めないが、松陰先生の字は右上がりでちょっと神経質そうだったり、
「松下村塾記」安政3年(1856)9月5日/吉田松陰/山口県文書館蔵(※6/28まで展示)
高杉晋作の字は男気と優雅さが同居していたり、
「奇兵隊結成綱領」文久3年(1863)6月7日/高杉晋作/毛利博物館蔵
性格(※あくまで妄想)が出る。
あと、桂小五郎の字が意外におおらかで、しょっちゅう戯画を描いているのもおもしろい。「ヅラじゃない桂だ」という声がどこかから聞こえてきて、思わず笑ってしまった。
じつは桂の戯画、酒好きの周布政之助を気づかったものだという。君子の眼は「天地」をしっかり見ているが、小人の眼は「ぐるぐる」。だからあなたも「飲むなかれ」というわけだ。それにしても、今回のドラマのキャストで一番肖像画に似ているのは、この周布を演じる石丸乾二じゃないだろうか(写真左/ちなみに桂役は東山紀之)。
晋さまが「三千世界の鴉を殺し」と歌った三味線も、ちゃんとある。
私は、今年の大河ではだれよりも高杉が好きだ。
高杉 晋作 (高良 健吾) | 登場人物 | NHK大河ドラマ「花燃ゆ」
たしかにイケメン揃いではあるのだが、高良さんの高杉は別格である。端正な顔立ちに加え、高潔さがあふれる演技。あまりにもキラキラしているので、妻・雅さん(ドラマでは黒島結菜ちゃんがかわいい!)の「晋さま」呼びを真似している。
高杉役は、『龍馬伝』(2011)での伊勢谷友介の伝説的演技も忘れられないが、いまおもうと、すこし狂気の割合が多かったように感じる。伊勢谷さんは、松陰先生(やっぱりちょっとこわい)くらいが丁度いい。
一方で、高良健吾は――伊勢谷主演の『白洲次郎』で少年時代を演じた印象から「同じタイプ」と勘違いしていたのだが――根本的に育ちがよく、人望ある高杉像を見せてくれる。どんどん孤立し暴走していく久坂も、池田屋の吉田稔麿もせつないのだが、奇兵隊の隊士に恐れられつつ慕われる晋さま、袂を分かつ久坂のうしろ姿に「死ぬな」とつぶやく晋さまのやさしさに、いつも涙腺を壊される。
ほんとうはやさしい人なのだ。
やさしいといえば、オープニングテーマの合唱の歌詞が、松陰が死の直前に書き残した和歌だと知った時の衝撃を書き添えておきたい。
愚かなる 吾のことをも 友とめず人は わがとも友と めでよ人々
「愚かな私を友として愛してくれるなら、私の友のことも、友と思って大切にしてほしい」
松陰先生……!
私にとって、今年の大河のもうひとつのチャームは川井憲次さんの音楽なのだが(『平清盛』以来のヒット!)、やはり歌詞に宿る力も大きかった。大丈夫、先生、志は受け継がれていくから!
猛々しく!
「猛々しく!」
……と、このようにいとおしい歴史の人物たちなのだが、彼らにはこうして生きていた証拠がちゃんと残っていて、その息吹を確かに、感じることができる。
私は歴史が好きだ、と心から思った。
絵画のように華やかではないが、やっぱり私は史料が好きだ。
もちろん、ミュージアムショップも好きだ。今回は作業中にお邪魔して、一番人気の山口銘菓・夏蜜柑菓子をいただいた。
皮をグラッセした干菓子に、青い時期の果実をスライスした「あおぎり」まで添えてあって、カラフル&デリシャス!
わが故郷・新潟は天領で攘夷でも佐幕でもなかったが、少女のころから沖田総司になりたかった私はじつは根っからの新選組派だ。長らく長州は敵だと思っていたけれど、おいしかったから旅してみたい。
そしてレジ脇にて、『幕末クロノロジー』というマニアックなデータブックを見つけてしまい、即購入……エンジンが、かかってしまった。
毎年、池田屋のころはこんなかんじです。