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【Music】曇天を吹き飛ばせ! | 藤原歌劇団『ランスへの旅』

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©ROF, 2013

ランス、という地名で思い出すのは「式はランスの教会だ」である。

その昔、大好きなシャルル・ドゥ・アルディがプロポーズのことばとして囁いていた(藤本ひとみ『愛は甘美なパラドクス』)。彼はフランス王家に連なる貴族の末裔。おそらくアルディ家は、王家の戴冠式の伝統にのっとって、代々の当主の結婚式をランス大聖堂で執り行っていたのだろう。

そう、「ランス」とくれば「戴冠式」である。19世紀のオペラのヒットメイカー、ロッシーニが同時代を舞台に描いたこのオペラもまた、王政復古の1825年、シャルル10世戴冠式前日を舞台にしている。

フランスの保養地プロムビエールにあるホテル「金の百合亭」には、ヨーロッパ中の貴族たちが集まり、戴冠式が行われるランスへ旅立とうとしている。宿の女主人コルテーゼ夫人は、セレブたちにアピールしようと、女中頭マッダレーナや侍医ドン・プルデンツィオら使用人たちに発破をかける。

ファッションオタクのフォルヴィル伯爵夫人、音楽オタクのトロンボノク男爵、骨董オタクの学者ドン・プロフォンド、スペインの提督ドン・アルヴァーロ、ポーランドの未亡人メリベーア侯爵夫人、ロシアのリーベンスコフ将軍、ローマの即興詩人コリンナ、イギリス軍人シドニー卿、フランスの若い騎士ベルフィオーレ……個性たっぷり、魅力的な登場人物たちが繰り広げる、恋あり歌ありのドタバタ喜劇。心浮き立つ設定とマエストロ・ゼッタの活躍が話題となった。今回は、本日付で正式に「Salonette広報担当」に就任する鷲尾仁美さんの現地レポートをお届けする(7/5 日生劇場)。

前評判がとても高く、期待して伺った「ランスへの旅」。
素晴らしき実力を持ったソリストが17人も勢ぞろいし、一斉に歌ってくれるさまは圧巻で、なんて贅沢な時間なのだろう…と夢心地でした。

特筆すべきは、女流詩人コリンナ役の佐藤美枝子さん。
ソプラノ音程は響きが強くなりがちなイメージがありましたが、
佐藤さんの声はどこまでも優しく、どこか浮世離れした静謐な存在感を放っていました。
歌のお供はハープだけ。オーケストラも静まりかえったなか、ハープの柔らかな音と佐藤さんの声が溶け合い、この世のものとは思えぬ美しい響きが会場を包みました。
女神様の救済を思わせる美声に、客席では目頭を押さえる人も…。

そして、最後の一息まで魅せる圧倒的なコロラトゥーラを披露してくれた、光岡暁恵さん!
歌はさることながら、演技も最高でした!
光岡さんが演じたのは、ファッション狂いの若き未亡人・フォルヴィル伯爵夫人。
手振りが大きく、無邪気に笑ったり、些細なことで大げさに嘆く様子は、某女性おバカタレントを彷彿とさせる天真爛漫さに溢れていました。嫉妬に地団太を踏む演技は、そのリアルさにお客さんも思わずクスクス。

ほかにも、チャラいフランス騎士ベルフィオーレを絶妙に魅せた小山陽二郎さん、
落ち着いた声音で毅然とした大人の女性・メリベーア侯爵夫人を表現した鳥木弥生さん、
非常に技巧的なものを歌っているのに全くそれを感じさせない久保田真澄さん…などなど、
17人全員が素晴らしすぎたので、一人ひとりに言及したいところなのですが、
さすがに文字数が足りないのでこの辺に留めておきます…。
さいごに合唱の歌詞にあった一節を引用して、レポートを終えることにします。
「曇天を 慈悲の天が 吹き飛ばす!」
まさに5日の曇天を、みなさんが美声で吹き飛ばしてくれました!
だから雨も予報より降らなかったですよね!

 

取材・文:鷲尾仁美

「曇天を 慈悲の天が 吹き飛ばす!」

晴れやかな合唱にロッシーニの旋律。すばらしい歌手とオーケストラ。『ランスの旅』は最近の、つづく悪天候にうってつけのプロダクションだったようだ。

心強いメンバーを得て、Salonetteも晴天に向かって邁進したい!