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【Art】それはわたしの恋人/ルドゥーテの「バラ図譜」展とコンサート

6月になれば思い出すのもの―― わたしはだんぜんバラの花。年ごとの薔薇見(ばらみ)のせいかもしれないし、バーンズの詩のせいかもしれない。

ああ 恋人は赤い赤いバラのよう 6月に花咲く ああ 恋人は音楽のよう 甘い調べ

ここには美しいものの象徴――最上級のほめことばとしての音楽とバラが、とてもシンプルに歌われている。6月のバラの花言葉は「気品」。それをひくまでもなく、人生の目標地点のようなものだとおもっている。もちろんここで語っているのは、ルドゥーテの描く淡いピンクや白の、優美なオールドローズだ。

18~19世紀にかけて活躍した宮廷画家ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ(Pierre-Joseph Redouté)。 彼はマリー・アントワネットに仕え、革命後にはナポレオン1世の皇后ジョゼフィーヌのもとで、マルメゾンの庭園に収集された膨大な数のバラを描いた。 銅版画をまとめた「バラ図譜」は、ボタニカル・アートとしてはもちろん、植物学の観点からも多くの人々を魅了しつづけている。

たとえばロサ・ケンティフォリア(Rosa centifolia)。

これは有名なヴィジェ・ルブラン夫人による肖像画のなかで、マリー・アントワネットが手にしている花の拡大図といっていい。ケンティフォリアの意味は「100枚の花びら」。 ダマスク・ローズの種類だから香りもよくて、香料採取用としてもたくさん栽培されている。 重なりあう花びらが美しいグラデーションをつくるさまは、眺めているだけでしあわせ。まわりじゅうが香りで満たされてしあわせ。 花を愛でるときに感じるこの気持ちを形にとどめるために、ルドゥーテのような画家が愛されたのかもしれない。 ルドゥーテは、王妃の絵の先生でもあった。

「バラ図譜」に関しては、ルドゥーテの生誕250周年を記念した「薔薇空間」展(Bunkamuraザ・ミュージアム, 2008年)の盛況が記憶に新しい。しかし今回の展覧会で特筆すべきは、音楽とのコラボレーション。“ルドゥーテチェンバロ”と呼ばれる、画家のバラを模写したチェンバロが展示されるばかりか、クープランやラモー、マリー・アントワネットの歌曲「それはわたしの恋人」の演奏を愉しむこともできる。

7月の「ドビュッシー、音楽と美術――印象派と象徴派のあいだで」展(ブリヂストン美術館)といい、今年はジャンルを横断するような展覧会が目立つのでうれしい。

生涯に4,000枚以上の花のデッサンを描いた彼(ルドゥーテ)には、ほぼ同時代に生きたモーツァルトの音楽と同じく、軽やかで華やかな旋律の中に美しいもののみ信じて生きた人の、透明な視線が感じられます。

と語る主催者の心意気に注目したいルドゥーテ展は、上野の森美術館にて開催中。 コンサートは15日まで。

http://www.eventsankei.jp/redoute_rose/index.html

Les Roses バラ図譜 【普及版】

Les Roses バラ図譜 【普及版】

 

(「花園magazine」初出)