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晴雨計 第7回 「港町それぞれ」

日曜日に、横浜の建築めぐりをしてきました。学芸員の友人に歴史博物館(旧横浜正金銀行本店)を案内してもらい、そこで紹介されていた神奈川県庁(キングの塔)や横浜税関(クイーンの塔)、開港記念会館(ジャックの塔)を実際に眺めつつ、山下公園の向かいにあるホテルニューグランドまで歩いてアフターヌーンティ。都内から地下鉄で30分、通勤圏内でもある横浜ですが、ガイドのおかげでちょっとした小旅行気分を味わえました。やっぱり旅には、知的好奇心とおいしいお茶が欠かせません。

横浜の「洋館」というと、やはり山手にあるカトリック教会やイギリス館、旧ベリック邸(ベーリック・ホール)など、外国人居留地が有名です。今回めぐった3つの建築はわりあい市街地に存在しているのですが、その3つの塔が誇らしげにそびえたつのを港から見た外国人船乗りたちが、チェスの駒になぞらえて愛称をつけたのだそうです。大好きな英国趣味が満載。

ところが私は、いつもこの街にいくばくかの違和感を覚えてしまいます。仕事がてら日比谷のビル街を歩く時のほうが、よほど往時の「一丁倫敦」を感じるのです。長年不思議に思っていたのですが、今回の旅で、原因は熱狂的な「異国情緒推し」のせいではないかと思い当たりました。

 

とにかく横浜の街は「開港」「西洋文化発祥の地」をぐいぐい推してきます。その雰囲気がちょっぴりテーマパーク的。ホテルニューグランドの、せっかくの美しい本館入り口にベタっと貼られた「開港154周年」という微妙な数字や、中庭の青い電飾はさすがにいただけませんが、それでも観光地として徹底して努力し「ハイカラな港町」イメージが日本中に轟くものになっている様子は見事なもの。地下鉄が広くて清潔でかもめの鳴き声がするのは、ひそかなお気に入りです。

横浜の歴史博物館では、同時期に開港した新潟運上所のなまこ壁も紹介されていました。同様の建築様式だった一代目の神奈川県庁が現存しないだけに、新潟のそれはとても貴重だということです。解説を聞きながら、地元の人たちは知っているのだろうか、としばし故郷に思いをはせてしまいました。もしかしたら、新潟が横浜と同じ開港五港であることすら、知らない人は多いかもしれません。お米だけではない新潟、広めたいと思うのは私だけでしょうか。

 (2013年9月13日付「新潟日報」初出)