【連載】続・晴雨計 第8回 「真理は、時の娘」
夏の終わりの英国気分、最高潮である。
恒例のHIT LISTでは、『ゲーム・オブ・スローンズ』に端を発した2016年上半期の英国熱を綴った。
「ドラマもオペラもオリンピックも、歴史ロマンに満ちている」と、わたしは本気で思っている。現実の世界には信じられないことも起こるけれど、どんなときも自分自身を信じて「前に!」と進みたい。それを教えてくれた人たちのために、私は書くことで、愛を示しつづけたいのだ。
そんな折、翻訳者の陶山昇平さんにチューダー朝の祖ヘンリー7世を描いたトマス・ペンの新刊『冬の王』をご恵送いただいた。」「闇の君主」という通り名がたまらない。
この『冬の王』の前に読んでいたのは、英国ミステリの古典『時の娘』。
シェイクスピア悲劇によって世紀の悪役にされたリチャード3世の肖像画に違和感を抱いた現代ロンドン(といっても1950年代)の刑事が、入院中の病室のベッドで史料を読み漁り謎解きをする……という、いまでも斬新なプロット。
とくに後半、リチャード3世と、それを破ったヘンリー7世のプロファイリングがおもしろい。歴史上の人物だって人間だからね、といつも思う。
真理は、時の娘で、権力の娘ではない。
史学の徒としても、まったく、そのとおりだとしか言いようがない言葉だ。
昔からリチャードはピカレスク・ヒーローだったが、最近は『薔薇王の葬列』や『ザ・ホロウ・クラウン』のカンバーバッチのせいで、この王が大好きになっている。
たぶん、誤解されやすい人が好きなのだと思う。
あと、気になっているのがリチャードの兄でモテ男だったエドワード4世を篭絡した王妃エリザベス・ウッドヴィル(「ロンドン塔の王子たち」の母)。書きだすと止まらなくなるので、またあらためて。