【連載】Febri「アニメファンのためのマンガ案内」第5回『BANANA FISH』
カルチャーマガジン『Febri』(一迅社)でのコミック・リコメンド。
「アニメファンにも読んでほしいマンガ」をテーマに、ジャンルを問わず注目の作品をご紹介しています。
第5回は、わが最愛のハードボイルド・ロマン『BANANA FISH』。7月からスタートするアニメの制作発表会の模様を交えながら、尽きせぬ思いを綴らせていただきました。
人生を変えた漫画がある。出会いは17歳。大学受験を前に進路を決めかねていた私に、漫画好きの従兄叔父がそっと貸してくれた黄色いコミックス――それが『BANANA FISH』だった。完結から数年、すでに「古典」という印象だった。読みはじめると一気に惹きこまれて現実に戻れなくなり、読了後、2日ほど学校を休んだ。
学校を休んで、地元の市立図書館に通った。ヘミングウェイやサリンジャーを読みあさり、登校してすぐ第一志望をニューヨーク市立大学に変更した。夏休みには突き動かされるように短編を書いて賞を獲り、絶対物書きになろうと決めた。今の私があるのはこの漫画のおかげだと断言できる。
『BANANA FISH』の魅力だなんて、人口に膾炙しすぎたお題でおこがましいと思けれど、それでもいま語りたいのは、この実体験――人生がまるっきり変わるような衝撃を、まだ読んだことのない人にも味わってほしいからだ。
魅力はおもに3つある。1つ目は舞台設定。1985年「別冊少女コミック」で連載を開始した本作は、ベトナム戦争を起点にアメリカン・ニューシネマの泥臭さをまとってはじまるハードボイルド。麻薬をめぐるミステリーでもある。
(後略)
BANANA FISH(1) BANANA FISH (フラワーコミックス)
- 作者: 吉田秋生
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/09/25
- メディア: Kindle版
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高校を2日ほど休んだとき、私は親友に「忌引きだ」と伝えたらしいのですが、記憶にありません。たぶん、心はニューヨークにあったのでしょう。
大人になって、さまざまな苦難も経験してあらためて思うのは、アッシュの不屈の精神にとって、英二の揺るぎない信頼がどれだけの支えだったかということ。
それがどんな関係性であっても、
「君はひとりじゃない 僕がそばにいる」
と言ってくれる人の存在が、私たちをつき動かすのです。
夏からのアニメも楽しみでなりませんが、アニメの前にぜひ原作も読んでほしい!
紙の上から聞こえてくる外画のような音楽とセリフ回し。荒れ果てた街の静かな夜明け――そういう80年代ニューヨークの空気感はたぶん、原作ならでは魅力として残るだろうから(詳しくは『マンガと音楽の甘い関係』で!)。
あの「黄色いコミックス」の復刻版も発売中です。文庫派の方は、最終回の数年後を描く傑作短編『光の庭』(別巻収録)を絶対にお忘れなく。
それではわが心のニューヨークへ――よい旅を(ボン・ボヤージュ)。
次号は6月中旬発売予定。どうぞお楽しみに!
- 作者: 吉田秋生
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2018/04/10
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