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【Movie】ミステリーの様式美 | 『オリエント急行殺人事件』

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『ボルジア家』のニール・ジョーダン監督のみならず、近年、映画とドラマの境界はほんとうにあいまいになった。

アガサ・クリスティの傑作推理小説シドニー・ルメットが監督した名作映画『オリエント急行殺人事件』も好きだが、三谷幸喜の翻案ドラマ(1/11,12放送)も私は大好きだった。

あれは、原作と映画への愛がなければできない一流の二次創作(特に過去!)だと思う。 

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探偵役のデフォルメのせいか周囲には拒否反応も多かったが、ポワロが活躍した30年代の英国と同時代、昭和10年の日本に置き換えた設定も、オールスター俳優たちの日英比較も含めて、とてもオタク的な作品愛に満ちていた。私は三谷さんのそういうディテールの凝り方が、一番好きだのだ。

たとえばキャスティングなら、ローレン・バコールが演じた元女優のマダムに富司純子ヴァネッサ・レッドグレイヴが演じた家庭教師に松嶋菜々子アンソニー・パーキンスが演じた被害者の秘書のアメリカ青年に二宮和也といった具合。

衣装もカメラワークも名作へのオマージュに満ちている。

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映画の彩りでもあったジャクリーン・ビセットと同じ、伯爵夫人を演じた杏ちゃんがまた、輝くばかりの美しさ! その夫・安藤伯爵(原作ではアンドレ二)を演じた玉木宏も、美しい妻に振り回される安定の俺様ツンデレヘタレ!!

イングリット・バーグマンが演じアカデミー助演女優賞を受賞したグレタ・オルソンにあたる呉田その子役・八木亜希子(後列右)の演技も見事だった。

第二夜(過去編)の華・吉瀬美智子さまを囲むガーデンパーティに、洋館。

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そして、轟公爵夫人役・草笛光子さまの華族そのものの存在感。このキャスティングだけでも、アガサ・クリスティだけでなく、ルメットへの愛に満ちているのがわかっていただけると思う。

オリエント急行の内装や衣装も含めて、クリスティのミステリーにある美しいものを満喫した二夜だった。

 

アガサ・クリスティは1890年9月15日、イギリスのデヴォン州に生まれた。パリでオペラを学び、1912年に空軍将校のアーチボルト・クリスティと結婚。夫とともに戦地へ赴き、看護師・薬剤師として毒物を研究した。しかし1926年、最愛の母が亡くなり夫との仲も険悪に。そのころ発表されたのが処女作『アクロイド殺し』だった。それからアガサは有名な失踪事件を起こした。事件後は夫と離婚し、考古学者と再婚。彼とともに世界を巡りながら、200あまりの小説を書いた。

私は昔から、誕生日が一緒のこの作家が大好きだった。コナン・ドイルの場合は圧倒的に探偵ホームズが好きなのに、クリスティは作家本人が好きだった。

彼女は自伝のなかで、「集中を乱すものをすべて排除する勇気」について書いている。群衆、騒音、酒、煙草。嫌いなものをまわりから排除して、好きなもので固める勇気。そうして彼女は、6カ月を一作のために費やし、それを繰り返した。『オリエント急行殺人事件』には、この用意周到さがいかんなく発揮されている。そこに探偵ポワロが偶然に乗りあわせる。様式美である。

映画もドラマも本も、歴史とミステリーと、そこに出てくる美しいもの――上流階級、美しい女、音楽や小道具、そして様式美が好きだ。

三谷さんはたぶん、おんなじフェチのひとだと思う。もしも乗り合わせた探偵がたとえば古畑任三郎だったなら、このドラマは絶賛の嵐になっていたのではないかな、などと詮無い妄想をしてしまった。


オリエント急行殺人事件 - フジテレビ

 

  

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