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乙女ロード巡礼記~ 「黒執事」前夜会

巡礼の締めくくりは後楽園で行われた。
なぜならお嬢様は、とある夜会に招かれていたから――

黒執事」前夜会~黒きアニメとその演者による麗しき集い~。
要は試写会である。
東京では10月3日深夜に放映されるアニメーションの第1話を先行上映し、キャストの舞台挨拶が行われるというもの。
まごうことなき初アニメイベントでもある。
試写会といえば「●組●名様ご招待」が常だが、今回は「当選者1名限り」。
ビギナーズラック(?)で当選してしまったわたしは、上京中の友をもうひとりの旧友マキ(御茶ノ水OL兼オタク)にまかせ、勇んで会場に乗り込んだのであった。

仕事柄、試写会やアーティストの会見的なものには慣れているつもりだが、初のジャンルに緊張は高まる。
「ファントムナイト(於: 小笠原伯爵邸)」みたいに、ゴスロリの女の子だらけだったらどうしよう、外国人執事に出迎えられたらどうしよう…
はたしてそんなことは、なにひとつなかった。
やはり普通の試写会である。特徴といえばやはり女子率の高さと年齢層の若さだが、プレスもいれば男性もいる。
すごいと思ったのが、「当選者1名限り」にもかかわらず、列成す女子たちが仲良しそうにおしゃべりしていること。熱烈なファンともなると初対面即友だち、という伝説は本当なのかも知れない。
会場は、勝手知ったる文京シビックホール
…のはずがなかなかあなどれない。仲良し女子たちはチームワークで次々と席を埋めていき、わたしは結局、1階席最後列の扉近く――大人のひとり客が多いエリアに落ちついた。
暗転。
ステージ上の柱時計にライトが当たり、ボーンボーンというSE。
鐘の音が止むと主従の会話が聞こえてくる。
「坊ちゃん、そろそろ夜会の時間です」
「ああ、わかった。いま行く」
「坊ちゃん、早くなさい。選ばれし1800人の紳士淑女の皆様がお待ちかねですよ」*1
モニターに「黒執事」のロゴが映り、上映が開始。

 
アニメ本編の内容についてはのちのちじっくり語っていきたいのだが、とにかくいちばんの特徴は、「脚本・演出が必ずしも原作に忠実でない」という点である。
これは熱心な原作ファンには相当なマイナスだと思うが、原作――エニックス系のゲームっぽいファンタジー性に食い足りなさを感じていたわたしのような人間には、サプライズの喜びだった。
画が美しいことは確認済みだったが、バロックとモダンがあいまった音楽(OP/EDを除く!!)もいい。
なにより19世紀の史実に忠実に、ヴィクトリアンの暗黒面をより強調した書き換えや演出に、賛辞を送りたい。
たとえば原作の第1話は、イタリアから“ゲームソフト”を土産に戻って来たクラウスを迎えるドタバタエピソードである。
それがアニメでは、コミカルな場面を最小限に抑え、オリジナルのイタリア人が悪役として登場する。商談中のゲームもアンティークな双六に差し替えられ、シエル・ファントムハイヴのけだるさ、誇り高さが遺憾なく発揮されていた。
セバスチャンはまさに、原作どおりの「あくまで執事」ぶりである。*2

上映が終わると舞台の端に男性が現れ、“いい声”で語り始めた。
「皆様…『黒執事』第1話ご覧頂きましたがいかがでしたでしょうか…」
疑問に思うまもなくスポットライトが当たり、スクリーンに「アンダーテイカー役 諏訪部順一」の文字が。
空気をつんざく黄色い悲鳴に、これが世に言う“サプライズゲスト”だと気づく。
贅沢にもこの人気役者・諏訪部さんがMCとのこと。
「予想以上に第1話…怖くなかったですか?」
と1800人の気持ちを代弁しつつ、
「皆様お待ちかねの、黒執事の豪華キャストの面々を呼び込みたいと思います。…言っときますけど、小野さんは(セバスチャンのように)飛んで出てきたりはしませんよ?」
と会場を沸かせる。プロである。


キャスト登場の段。
実はわたし、諏訪部さん登場のあたりから背後で関係者がせわしなく動く気配を感じていた。これまでの裏方経験などから推察して、もしや、とは思っていたのだが…
サプライズ!!
まさにわたしの左後方の扉が開き、そこからキャストたちが入場したのである。
左右2つの通路を、小野大輔さん(セバスチャン役)、坂本真綾さん(シエル役)、東地宏樹さん(バルド役)、梶裕貴さん(フィニ役)、加藤英美里さん(メイリン役)が進み…
そして三度!!!
やはりサプライズゲストとなるグレル役の福山潤さん、ラウ役の遊佐浩二さんも加わり、観客のすぐ横を歩く。
以前から「ハンサム」の認識があった小野さんは、間近で見たら「ハンサム」な上に「オーラ」があり、感激。*3
役者さん目当ての人ももそうでない人も、こういう演出は嬉しいもの。
会場はまさに割れんばかりの歓声に包まれた。

「舞台挨拶」なのだから、トークは長くても30分ぐらいだろうと思っていたのだが、とんでもない。なんと1時間である。
内容は自己紹介に始まり、質問タイム、第2話予告編上映、OP/EDアーティストからのビデオメッセージという流れ。*4
終盤、それまで相槌に徹していた坂本さんが、実は体調不良だったため退場、というハプニングがあったものの、締めの挨拶では奇跡の復活をしプロ根性を見せた。
無事全員の挨拶が終わったところで、シエル=坂本さんと会場によるコール&レスポンス。
「命令する!黒執事、絶対見ろ!!」
「イエス!マイロード!!」
瞬間、パーンとステージに銀テープが発射、大歓声のなかキャストが退出した。
終演と思いきや、再び客電が落ちて、セバスチャンの声。

「ああ、もう月があんなに高い。お体にさわります、どうぞお休みください」
「セバスチャン、そこにいろ。僕が眠るまでだ」
「どこまでも坊ちゃんのおそばにおります。最期まで…」

原作でも一等おきにいりの場面とともに、幻想的に、初イベントとわたしの聖地巡礼は幕を閉じたのである。
その後、合流した旧友ふたりが目にしたわたしのテンションは、ドーム・コンサート帰りのSMAPファンをもはるかに凌駕していたと聞く。


TVアニメーション黒執事』(MBS・TBS)
http://www.kuroshitsuji.tv/ 

 

 

黒執事 1 (1) (Gファンタジーコミックス)

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  *1 応募総数1万通のうち、およそ1800人だとか。
多少粉飾があったとしても、話題性の高さは窺える。

*2 ひとつだけ気になったのが、最初に出てくる目覚めの紅茶が
「ロイヤル・ドルトンのセイロン」→「ジャクソンのアールグレイ
に変えられたこと。
セイロンのほうがシエルっぽくて好きだったので、その意味はいかに、と考えてしまった。

*3 質問タイムの内容は「あなたは主人派?執事派?」というもので、役者さんならではというか、全員が「Sなので主人派」と答えるなか、小野さんだけは「Mなので執事で…いや奴隷で」と語り爆笑(失笑?)されていた。
しかし今回の印象から見るかぎり、小野さんは「Mだからいじってこい!」というナルシスティックなSではないだろうか。ハンサムだし。
…ある意味、主演俳優のあるべき姿に好感が持てた。

*4 ちなみにOPを担当するシドは、今回がメジャーデビューの人気インディーズバンドだったらしく、映像の登場にもかかわらずゴスっ子たちから歓声が上がった。
曲調はまあ、ビジュアル系…?
黒執事』はそもそも、ゴスロリブランドの殿堂・新宿マルイヤングでヴィジュアル展開やコラボフェアをするほど“そちら”への訴求力はあるため、妥当なのかもしれない。
しかし、EDの新人米国人シンガー(のわりには歌唱力もない)BECCAに至っては、なぜ選ばれたのかが謎。英国ロックというわけでもないし…
深夜に静謐なミステリーの雰囲気を味わいたい者にとっては、相当な妨害になりそうな予感。