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パラディーゾ


以前紹介した、今期のフジテレビ深夜アニメがすばらしい出来。
まだ半ばではあるが、前回補足とした『リストランテ・パラディーゾ』を中心に振り返ってみたい。

深夜アニメはマニア向け。
そんな印象を「ノイタミナ」が打ち破って久しいが、新たに新レーベル「NOISE」が加わり、
「まさかこれがアニメになるなんて!」
という話題作をどんどん送り出そうとしている。
リストランテ・パラディーゾ』の原作(オノ・ナツメ太田出版)もまた、マンガ読みならば誰もが知るような名作だ。

イタリア、ローマ。
従業員は老眼鏡着用の紳士ばかりという、ちょっと不思議なリストランテ「カゼッタ・デッロルソ」。
そこにニコレッタと名乗る若い女性が訪ねてくる。ニコレッタは、オーナー夫人であるオルガの実の娘であった。
彼女は、妻に娘がいることを知らないオーナーにすべてをバラしてしまおうと、ローマへやってきたのだ――


母の再婚のため幼くして祖母に預けられた、という、往年の世界名作劇場的なストーリーのわりに、作品の湿度は低い。
ニコレッタはむしろあっけらかんと、新しい生活を楽しんでいるように見える。
これには母オルガの性格も大きく影響しているのだろうが、なにより食と歌と恋に生きる、イタリアという風土のためのように思えてならない。
なぜなら、オーナーのロレンツォはロレンツォで一見するとハードな過去を背負っているし、従業員の紳士たちも、やはり生きてきた年数に比例するようにさまざまな過去――さまざまなひととの結びつきや、愛や、後悔や追憶をはらんで生きているからである。
しかしそれは、垣間見える、というより口に広がるワインの味のようなものでしかない。
ほんとうにおいしいリストランテの料理のように、物語も、演出も、音楽も、けして華美ではない。

唯一賑やかなオルガだが、これも邪魔にはならない。
女性の目から見ても、恋と仕事を両立し、溌剌とした印象のまま年を重ねるオルガは愛らしく、紳士たちが慕うのも納得するようなほんものの女の魅力がある。
もちろん、このオルガとニコレッタの関係は、終盤、わずかに変化する。

なにかあると、ニコレッタは思いをよせるカメリエーレ長・クラウディオに話をきいてもらうのだが、ふたりの会話がまた、シンプルでいい。 

「よかったですね」
「・・・やっぱり嬉しいね」

 こういう会話の行間がすばらしい。
マンガでいうなら「吹き出しのないコマ」なのだろうか。
オノ・ナツメによる新しいマンガの手法なんて、それこそ書き古されているだろうから多くは語らないが、読み返すきっかけを与えてくれたアニメに、とても感謝している。

映画やアニメは、なにかをしながらBGMとして楽しめるところも好きだ。
この作品はやはり、料理の名前を大々的に語ったりレシピを紹介したりするグルメマンガの要素は一切ないのに、流しているとイタリアンとワインがほしくなる。
それが無理ならショコラートだけでも。

いちばんすきなのは、ロレンツォがソムリエ・ジジとの過去を語る「オルシーニの味」。
それからコミネリサによるエンディング・テーマ
眠る前のひととき、おしりを振るかわいいテディ・ベアと、聖人みたいなクラウディオ・パラディーゾのささやきが、わたしをやさしく励ましてくれるから。

リストランテ・パラディーゾ 1 [初回限定版] [DVD]

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