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グッドガール強化月間

昨日は、小花の裏地のバッグを見つけた。
今日は、裾上げしていたキャメルのトレンチコートが届いた。
新しい靴はまだ見つかっていないけれど、日ごとに秋の気分が高まっていく。 

 

秋のアイコンは、『17歳の肖像』のジェニー(キャリー・マリガン)に決定。
かねてからヴィクトリアン・ゴシックの少年貴族(トラッド)と、三木聡の描く上品かつ妖艶な女教師(レディ)のあいだで揺れ動いていたのだが、いいとこどりのジェニーを思い出して映画を見返したら、すとんと落ちついた。
テーマは「背伸びしたグッドガール」。
60年代。ロンドン。女学校とチェロのレッスン。ラヴェルの演奏会。ジャズクラブ。オックスフォードへの小旅行。C.S.ルイスシェイクスピア。シャネルの香水。英国少女の目を通してみる、ジュリエット・グレコのパリへの憧れ―― 教科書が教えてくれない大人の世界を手取り足取り教えてくれる年上の男への憧れ、同時に揺れ動く少女の心を、ファッションをはたくみに描き出す。
制服を脱ぎ捨て、大人びたワンピースにコートをはおる少女。
その服が自分にまだしっくりこないとわかっているけれど、彼の隣にいるならば、そういう女性でありたい。
年下だけど、子ども扱いされたいわけじゃない。
女ならばきっと身に覚えがある感情だ。
ブラウスにタイトスカート、ハイヒール、ハンドバッグ、結い上げた髪もサングラスも、少女の理想の女。 

 

その一端を具現化しているのがヘレン(ロザムンド・パイク)なのだろう。
スクリーンから香水の香りが漂いそうなほど完璧な「美女」であり、年下のジェニーに、美しくなるためにはどうすべきか教え、自分の服も惜しみなく譲る寛容で優しい女だ。
すぐれた知性ゆえに教育や、親に決められた将来に疑問を抱いてしまうジェニーとは対照的に、ヘレンは自分で考えるということをしない。
彼女は美しいが教養も知識欲もない。*
しかしながら、たまにドキリとすることを言うのである。
「ひとってもともとは美しいものよ。大学なんかにいかなければ、ずっと綺麗でいられるのに」
女が幸せに生きるってどういうことだろう? 

 

その問いかけに答えるように存在するのが、スタッブス先生(オリヴィア・ウィリアムズ)だ。
美しく聡明、しかし自室でさえメガネにひっつめの武装を解かないケンブリッジ卒の彼女は、「女が大学を出ても先生になるくらいしかない」という時代に可能性を阻まれた世代の一人なのだろう。
そしてジェニーに、新しい世代の可能性を見出している。
「あなたの小論文を読むことは教師として励みになる」
「あなたには進学してほしいの」
そして最後の和解。
「そう言ってくれるのを待ってたわ」
本と絵画に囲まれた、先生の部屋での会話。
わたしの胸をついたのは、すべて彼女の言葉だった。
ついでにジェニーのパパが部屋の外に置く、ミルクティとビスケットにいつも号泣。 

 

原題は「An Education(教育)」。
少女にとっての教育。
いろんな意味での教育。
なにが正しくてなにが間違っているのか。
わからない。そんなものないのかもしれない。
けれどひとつだけたしかなのは、あの頃のわたし戻っても、わたしはもう一度同じことをするということ。
“読書”しつつ、“見苦しい姿”にならぬよう努力しつつ、過去を密やかに隠し持って、女は生きていくのである。 

  *パイク自身は舞台出身で、実際にオックスフォード大学で英文学を専攻した才女。