Salonette

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I'm Traveling

私がその家に移ってから一週間ばかりたったある日のこと、二号室に属する郵便箱の名札さしに奇妙な名刺がさしこんであった。
しゃれた字体で印刷してある文字を読むと、「ミス・ホリデイ・ゴライトリー」とあり、その下の隅っこに、
「旅行中(Traveling)」と記してあった。
……
彼女は一匹の猫を飼い、ギターを弾いていた。陽の良く照る日には髪の毛を洗い、
赤毛のトラ猫と一緒に非常階段の上にすわり、毛を乾かしながらギターを爪びきしていた。

眠りたくもないし、
死にたくもない、
ただ旅して行きたいだけ、
大空の牧場通って

ティファニーで朝食を』(新潮文庫)より

映画では、有名な「ムーン・リヴァー」が歌われる場面。
無名作家の“私”ことポールと目を見交わしながら、歌うオードリーがすき。
でも原作の歌もいい。行く当てもなければ、帰る場所もないけれど、心の赴くまま旅を続けたい(Traveling)というホリーの心情にぴったりです。

ある晴れた朝、目を覚まし、ティファニーで朝食を食べるようになっても、あたし自身というものは失いたくないのね

ティファニーで朝食を」――
それはすべての不安から逃れた、安らかな日々のこと。
場所はティファニーであり、夜の続きではなく朝食でなければならない。共感!
自由と孤独の間を揺れ動くホリーを表した、大好きな言葉です。
公開時、「ティファニーってレストラン?」と勘違いした人も多かったそうですが、それを逆手にとって顧客を招いての朝食会を開いたり、テーブルマナーの本を出したりするティファニーのエスプリも好き。
 
ティファニーのテーブルマナー』(鹿島出版会
マナーがどうということより、この本の存在そのものがもういとおしい。イラストも麗しいお気に入りの一冊です。私が買ったのは1991年版なので、今の本とは装丁が違うけれど、このティファニーブルーも素敵。TIFFANY'S TABLE MANNERS FOR TEEN-AGERSという趣旨なので、卒業祝いなどのちょっとした贈り物にしたらラヴリー!

ティファニーのテーブルマナー

ティファニーのテーブルマナー

 

オードリーの上品さ、マンシーニの甘い音楽は、とかくカポーティ(原作)ファンからの批判対象になるようだけれど、映画と小説は別物、と考えるのが柔軟な乙女の作法。
(ソフィアのアントワネットがそうであるように!)
甘いといわれようが、映画は私にとって、オードリーとニューヨークがいちばん魅力的に思えるラヴストーリー。ずぶぬれの猫ちゃんが見つかるラストシーン、いつもわかってるのに泣いちゃう。
そして小説は、ホリー・ゴライトリーの“旅”の物語なのです。

ティファニーで朝食を (新潮文庫)

ティファニーで朝食を (新潮文庫)