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夏のなごりの薔薇 【レコード編】


というわけで、「夏のなごりの薔薇」、まずはレコード編。
私はこの季節――もう少し前の、晩夏、のイメージが大好きで、この語感も好きで、『日の名残り』*1という映画の余韻も好き。
だから、いつもはどちらかというと「夏の名残りの薔薇」*2と書く。
このタイトルは、9月の終わりに幸運にも遭遇した、波多野睦美×つのだたかしリサイタルから。
詳細はぜひ、こちらでご覧ください。
すべからく代弁していただいた気分!!

その直後、発売された波多野睦美の新譜『サイレント・ヌーン』(エイベックス)がまた、すばらしい。
去年の「子守歌のおまじない」から1年あまり、待ちに待った“波多野版イギリス近代歌曲集”。
タイトルは、波多野さんがもっとも思い入れがあると語っていた、ヴォーン・ウィリアムズの「静かな午後」。
詩は、ラファエル前派の画家ロセッティ(この絵も彼の作)によるもので、もちろんライナーの訳詞は波多野さん本人。
インタビューに答えて、
人生の束の間の美しい瞬間を、詩と音楽が微笑み合うように溶け合って…
と答えている。なんて美しいの。

冒頭には、私にとって、10年以上前の“波多野睦美との出会い”でもある「サリーガーデン」(ブリテン編曲版)。
イェイツの詩の美しさ、悲しさにあらためて涙がこぼれた。
19世紀末に花開いた「イギリス音楽復興 English Musical Renaissance」の担い手たちは、ルネサンスチューダー朝の詩や音楽そのものにも大きな影響を受けている。
これはロセッティら、美術界の動きとも呼応しているようで、非常に興味深い。
アルフレッド・テニスン、ウォルター・デ・ラ・メアウィリアム・ブレイク、そして、ウィリアム・シェイクスピア……
音楽にのせて、英詩を味わうというのも秋らしい楽しみだ。 

サイレント・ヌーン

サイレント・ヌーン

 

秋の英国文学。
まさにカーラ・ブルーニ『ノー・プロミセズ』(右上)のジャケット写真のイメージ。
ジャンルは違えど“音楽にのせて、英詩を味わう”ことにこだわった、フランスのシンガー・ソングライター、ブルーニの才媛ぶりに驚く。
上記以外にもエミリー・ディキンソン、クリスティナ・ロセッティ、ドロシー・パーカーといった女流詩人をたちの心のつぶやきが、官能的なハスキーヴォイスと驚くほど溶け合う。
マリアンヌ・フェイスフルによる英語指導や、ルー・リードによるイェイツ朗読。
そしておそらくブルーニ自身のコンセプトだろう、ヴィジュアルの隅々にいたるまで、彼女のセンス=知性が生かされた、美しい1枚だ。
文学乙女ならば、ぜひ聴くべき。 

ノー・プロミセズ

ノー・プロミセズ

 

 
最後に、“オリーブ少女の永遠のアイドル”ヴァネッサ・パラディの新譜が嬉しくて、ご紹介。
このところ“ジョニー・デップのパートナー”、“レッド・カーペットの常連”としての姿しか(少なくとも日本のメディアでは)見ていなかっただけに。
ちなみにジャケットは、(やっぱり)ジョニー作のポートレイト。

Divinidylle

Divinidylle

 
 
*1 『日の名残り』(The Remains of the Day)は1989年刊行のカズオ・イシグロの小説。ブッカー賞受賞。 93年にジェームズ・アイヴォリー監督で映画化された。

*2 恩田陸も同名のミステリ小説を出している(文春、積読中)。
大ファンではないけれど、この人は萩尾望都ファンを宣言されているだけに、「お、いいですね~」と思わせるタイトルやディテールが多い。
このミステリも、萩尾先生の最愛映画『去年マリエンバードで』('60、アラン・レネ監督作品)がモティーフだそう。
ライオンハート』(新潮社、遠くに行ってしまう友人にあげちゃった)は、萩尾作品『ヴィオリータ』が源流だというし。
そんな、漫画も大好きな作家の本音トーク満載エッセイ『「恐怖の報酬」日記』(講談社)が、いちばん好きだったりして。