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紅の豚派

  銀魂アニメ148訓「チャックはゆっくり引きあげろ」予告。
二週間にわたって繰り広げられる、土方と沖田の死のゲーム。おそろしい。いろんな意味でおそろしい。19話ぶりの登場が楽しみすぎて、おそろしい。
このふたりにまつわるあれこれは偉大な先達がたくさん描いていて、だからこそ、空知英秋の描く伝統的でいて破天荒なデフォルメはさすがだなーと思う。
基本的に敗者でない、沖田も健やかな真選組だからこそできることだとしても。
沖田は真選組(=近藤さん)を裏切れないから土方を殺せない――というのは建前で、いつも「死ね死ね」言ってるくせに殺す気ゼロ。土方はもともとゼロ。覚悟うんぬん言ってたくせに、伊東相手にはあんなにシリアスパートだったくせに、沖田にはあんな…!土方…不憫なやつ!
そんなところがすきです。なんかくやしいけど。 
 
「男とは」みたいな考察が続く。
予告で興奮気味のMに冒頭のように指摘しながら、このやせ我慢が土方の身上だなあ、とあらためて。
ある意味同一モデル=土方歳三*1 からの派生である銀さんと土方なので“似てる二人”なのだが、なによりも似ているのが意地と見栄の部分。
土方は銀さんより少し若く挫折も少なく(脳内デフォルト)、あと性格的にまじめなので、そのツンデレっぷりシャイっぷりが半端ない。*2
そんな副長が親衛隊対決での沖田のラピュタ連呼に対してさりげなく、

「大体俺は紅の豚派だ!!」

とツッコむのが、もっともすぎてツボだった。
そうだ土方、お前は「男の美学」タイプだ。男ツンデレ15の夜だったはずだ。
そんな男がいい大人になって、煙草片手にニヒルなクールガイ気取りだっていうのに、内実は「上にも下にも問題児を抱えフォロー三昧の日々」を送る「フォロ方十四フォロー(血液型:A型)」だということがいとおしい。
悲哀が、いとおしい。
土方はハンサムで長身だし副長だし幕府直参だから高給取りともいえるし、二次元の鑑みたいなキャラクターだが、むしろ欠点こそがいとおしいなあと思うのは、わたしが歳をとったからなのかな。
ヘタレでもオタクでもいいんです、男は。
カッコつけることが肝心です。
 
ほんとうにいまさら『燃えよ剣』を考えてみる(司馬遼太郎、新潮社)。
武州の百姓の末に生まれた男前だが無愛想なバラガキが、生来の喧嘩好きと組織作りの天性によって幕末の京都へ。内部闘争、 局中法度と粛清に次ぐ粛清によって、烏合の衆である「新選組」を真の侍集団へと鍛え上げてゆくが…。
新潮文庫の100冊にも毎年登場、思春期の男子が読もうものなら、人生観そのものを揺るがされかねない名作。

……だと思うのだけれど、わたしの周囲の男性に土方は不人気だ。
大河でブームだったときも、わたしは史学科だったのでまわりはみんなが見てるし、司馬どころか子母澤寛とかはあたりまえに読んでるくせに、「副長」と言うとうっすらなまぬるい反応だった。
最近も、「土方って……あの、洋装で髪なでつけた写真の?」と変な顔をされた。
男はだまって近藤勇、いやいっそ坂本龍馬、みたいな(高野調べ)。
 
たしかに近藤や竜馬に比べると土方は政治的な思想のない――あえて持たない人物で、あくまで実務者だ。
「剣」のように鋭くクレバーで、目的=組織の強化だけを考え続けたが、手段といえば切腹か粛清。
「幕府の犬」、人を斬るために存在する「剣」が人を斬ることを迷ってはいけない、 とでもいうような、ギリギリの雰囲気が行間からも滲んでいる。
カッコイイようだが哀れ。

史実土方もやっぱりヘタレなんじゃない?という話題にもなって、それは……ある意味そうだと思うけど。
副長はね、他者に対してものっそい優しいけれどシャイだから、それがうまく表現できないんだよ。時流に乗れてない自分に気づいているけれど、自分のなかの武士道を最後まで貫き通そうとする不器用なひとなんだよ。そこが魅力でもあるの。*3
あとは、そう、あのおそろしく下手な俳句が決定打。

「どうだ」
 歳三は恥ずかしそうにしながら、それでも沖田のほめ言葉を期待している。…沖田は、なおも笑いをこらえて読む。
(これもひどい)
――うぐひすや はたきの音もつひ止める
「気に入ったか」
「土方さんは可愛いなあ」
 沖田は、ついまじめに顔を見た。
「なにを云いやがる」
 歳三は、あわてて顔をなでた。

 『燃えよ剣』は土方の一代記だが、こういうほっこりする会話のおかげで、沖田がすごく好きになる。
普段は距離を保っているのになにかあったらまっさきに協力しあう、意地っぱりの兄と、マイペースな弟のようなふたり。しまいに馬鹿やって、中二に戻っちゃう。
憧れのボーイズライフ。
それこそわたしのデフォルトなのである。

 

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*1 土方歳三(1835-1869)は、江戸末期の幕臣蝦夷共和国陸軍奉行並箱館市中取締裁判局頭取。諱は義豊。雅号は豊玉。新選組“鬼の副長”として人びとに恐れられた。
空知英明のコミックス『銀魂』(集英社)の登場人物・土方十四郎は、主人公の好敵手にして、真選組副長。
5月5日はふたりのお誕生日。この時期は毎年土方強化月間でもあります(わたしの中で)。 
 
*2 以下再び余談※自分用メモ。
わたしの脳内では、18,9の沖田に対し土方は史実どおり7歳上、銀さんはある意味作者の分身なので29でもいいんだけれど、サザエさん方式で27,8くらいで止まっているのがデフォルト。
ツンデレについては、素直じゃないのは沖田も同じなのでよく「沖田君はツンデレ王子様☆」みたいな描写を見かけるのだが、ツンデレ=シャイ。沖田はシャイではない。沖田にツンデレのデレはない。彼は限りなくマイペースに「かまって」アピールをしているだけだ。ただやり方が猟奇的なだけなのだ(特にvs土方、神楽)。

猟奇といえばネタバレだが地愚蔵編、沖田があの「死に際のひとこと」を言いたいがための大芝居だったら、生死をかけてまでの仕込みがそのためだったら…いじらしい。
死ぬぐらいじゃないと土方の本気は見えない→本気にさせたい→読者をだますくらいの芝居→死ぬと思いこんであのように言う、という行動だったわけで、もう、どこまでが本気でどこからが芝居なのか、当人にもわからなくなってる。(追記: ここでの「ミツバのテーマ」曲使用には降参です!)


*3 鳥羽伏見の戦い以降の歳三は銀さんのイメージにつながる。「新選組」という枠が崩壊し、本当の意味で帰る場所は無くなってしまった――寂寥と諦観と、それでも投げないかんじ。