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ボーイズライフ・アゲイン

使命感にかられ携帯電話を開くと、「以前のツイートは15日前」になっていた。

というのはよくある話(※前項参照)だが、それまでの二週間実益のあることなど何一つしていなかった、というわけでもなく、依頼の原稿、連載の原稿、恋人との喧嘩、様式美についての考察(都市景観とガンダムにおける)、『黒子のバスケ』(藤巻忠俊集英社JC)の社内流布などいささかどころでなく手一杯であったことは断言しよう。
とはいえ、いちばん時間を割いていたのが読書、映画、そして音楽の3大インプット作業であり、その実態が「ひきこもり」に近いものであるということはどうにも否定できない。
そうして、「語りたい」という思いだけで文章にもなっていないメモだけがノート一冊分にもなんなんとするいま、世間はすっかり夏だということに、はたと気づいたのである。

町ゆく男子学生の制服が白い開襟シャツに変わったからだ――
などと嘯くのはもちろん後付けの理由で、もう池田屋がね、登場するとね、だめ。
男たちの夏すぎて、だめ。

大河ドラマ龍馬伝』の、あの、ブラック新選組の話です。
原田泰造局長の極S顔、たまらない。
あのひと、そのうち龍馬暗殺するよね、たぶん。
完全に悪役。幕末残酷物語。
仮面ライダー系と思しき、ハンサムな土方と沖田もたまらない。
沖田なんかなんにも考えないで人斬ってそう(ドSバカ)な描かれ方で、でも敵方から見たらそうだよね、なに考えてるのかわからないしこの子、先刻喀血してゼイゼイいってたはずが小唄なんかくちずさんじゃって大丈夫なの、と突っ込みつつ、もしかしたら隣を歩く副長(ハンサム)の目をごまかすために虚勢を張っているのかもしれない局長に心配をかけたくなくてはしゃいで見せているのかもしれない、弱みを見せず片意地張って生きてる子だからな、などと続いていくわたしの脳内妄想はどうでもいい。
あえてしゃべらないところもいい。*

今回、月並みと思っていたオープニングにも拘らずテロップに局長たちの名前を見つけただけで感極まり涙するに至って、ちょっとおかしいくらいのテンションで新選組がすきなのだ、どんな描かれ方をしてもすきなのだ、と確信したわけだが、ひとつだけ譲れないものがある。
それは「若さ」だ。
幕末の群像劇にとって、「若さ」は欠くことができない要素だ。
  
 
若いからこそ、彼らはバカである。
若いからこそ、彼らは迷走する。
新選組だけではない、池田屋で密談する攘夷志士たち。
あんなに必死な形相をして、言うことが、
「京の町に火をつけてその隙に帝をお救いする」
ってどうしてそういう極論に達したのか。
あなたたちバカでしょう、としか言いようがない。
ブラックアウト(池田屋事件)ののちの勝ち誇った新選組
きっと副長(ハンサム)あたりが、
「おい、戦果を知らしめるため大通りを歩くぞ」
とか言ったのだろうけど、もう京の人たちドン引きだからね。なんやあの羽織だっさーとか言ってるからね。

あっちもこっちもみんなばかじゃきー!(←龍馬)

大河ドラマ龍馬伝』は、香川照之出すぎ、香川照之主役くいすぎ、など難点も多いが、このあたりの視点は揺らがないので好感が持てる。
つまりこういうことだ。
幕末とは、
「若者たちがチームを作って社会に挑んだが、最後に解散した。
でも若者たちは真剣に悩んだり女の子追いかけたりバカをやったり輝いていた。
ああ、もう戻らない、あの楽しき夏の日よ」
ということに尽きるのではないか――。

たとえば『新選組!』の若手キャストには三谷ドラマ的な必然があったし、1年のドラマでそれは表現されていたと思う。
「キャストを信頼できる俳優に」ということになると年齢層が上がるが、それでは総合的な演技力は上がっても、代わりになにかを失うだけだ。
高校生を描くドラマのキャストが、演技力のためだからといって30~40代中心になることはない。
だって「青春ドラマ」なんだもの。

やれ『銀魂』、やれ『Stand Up!!』*みたいに幕末を語るなと叱られても仕方ないのだが、でもわたしは昔から、そういうバカで必死でちょっと下品な男たちの青春ドラマとしての幕末が、大好きなのだった。
夏になると血が沸き立つ。
肌にまとわりつく熱気。けだるい風。
こうしてわたしはこの夏も、クーラーの効いた屋内に本を積み上げ、京の都を夢見るのだろう。
 
  
 
http://www9.nhk.or.jp/ryomaden/ 

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  * 出しゃばらない不気味な新選組像は、ある意味「龍馬側からのリアル」というコンセプトで大賛成。
池田屋の襲撃については説明不足な気もした(「桂さんか?」のあとでブラックアウトして瀕死の亀弥太に龍馬が遭遇する)が、実際、襲われたほうにとっては何がなにやらだっただろうし、龍馬のようにあれがきっかけで「残虐非道な武装集団・新選組」を認識した人も多いのだろう。
まわりまわって新鮮な視点かも。

** 『Stand Up!!』はTBSのドラマ。音楽を『銀魂』と同じAudio Hightsが担当しているのも、おきにいり。
(そのあたりはまた別の機会に書きたいのだった。)