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男たちよ!

 

http://www.esquire.co.jp/others/close.html
 
発表から一日、まだショックが抜けきらない。
エスクァイア(Esquire)は、1933年にシカゴで創刊された世界初の男性誌である。「生活の設計(アート・オブ・リビング)と新しい余暇(ニュー・レジャー)」をコンセプトに、ライフスタイル、男の楽しみや美学を提案し続けている。
ヘミングウェイの傑作『キリマンジャロの雪』も、カポーティの『ティファニーで朝食を』も、まずエスクァイアに発表されたもの。フィッツジェラルドスタインベックウィリアム・サローヤンなどにも発表の場を与えた、20世紀のアメリカ文学史の舞台。その側面だけでも、エスクァイアはわたしとってあこがれの雑誌たりえたのである。
日本版の創刊は1987年。“大人の男”ではなかったが、10代のわたしは出会ったとたん“アート・オブ・リビング”に魅了された。読むことがステイタスとなるように、書くこともまた念願だった。ようやくそれがかなってわずか1年――休刊までの3号は永久保存版にしたい。
時代に迎合せず、時代と離れすぎないエスクァイア
しかし時代は、“大人の男”にもアートにも厳しいようだ。

有名雑誌の廃刊・休刊は引きもきらない。
最近では『Cawaii!(カワイイ!)』(主婦の友社)がニュースになっていた。同社の『主婦の友』や『月刊現代』(講談社)、『読売ウィークリー』(読売新聞)『ヤングサンデー』(小学館=『海猿』『Dr.コトー診療所』等を連載)といった週刊誌まで容赦ないが、一方『Title』(文藝春秋)や『Lmagazine(エルマガジン)』といった良質のカルチャー誌がファンに惜しまれつつひっそり消えていくのは悲しい。

特に苦戦しているのが『エスクァイア』のような男性向けカルチャー&スタイル誌なのだろう。
集英社の老舗誌『月刊プレイボーイ』――かつては開高健、最近では佐野真一などの連載を抱えた“大人の男”雑誌の草分けが、昨年11月、部数下落や広告の減少を理由に33年の歴史に幕を下ろした。*1
すると堰を切ったように『Z』(エムスリー・パブリッシング)や『zino』(KI&Company)など、近年創刊の男性誌が次々と倒れ、以前ご紹介した『月刊KING』(講談社)も、いつのまにか消えていた。
『KING』は「最も雑誌を買わない」といわれるM1層(20代から30代前半の男性)をあえてターゲットに設定、内容は黒ありエロありで過激なのに、スタイリッシュ。創刊当初からその男気に惚れて応援していたのだが、構想2年、創刊から2年であえなく休刊。
もうこの国に“大人の男”なんて、存在しないのか。
 
ひとクセ俳優が演じる大物たちの肖像「KING LEGEND」が好きだった。瑛太による三島由紀夫大森南朋による黒澤ヒーロー、ピエール瀧による伊丹十三…ファッションストーリーのあと、モデルの人物について独特の評伝やコラムを展開する。
なかでもすばらしかったのが、松田龍平が演じた白洲次郎ストーリー。
ブリティッシュ・トラッドに身を包む龍平の色気もさることながら、織り込まれる次郎哲学にしびれずにはいられなかった。

プリンシプルを持って生きれば、人生に迷うことは無い。
プリンシプルに沿って突き進んでいけばいいからだ。
そこには後悔もないだろう。

終戦後の日本でGHQと対等に渡り合い、「唯一従順ならざる日本人」と言わしめた男、白洲次郎
パワーと品格をあわせ持つ生き様、英国仕込のダンディズム、そして美しく聡明な妻・正子。*2
正子にあこがれる意味もこめて“理想の夫ナンバーワン”の次郎が、NHKでドラマ化されるという。主演は伊勢谷友介*3。スーツの似合う長身と佇まい、オールバックで際立つ輪郭も美しい。(声もいい。)正子にはこれも美しい中谷美紀。脇を固めるのも渋いベテランばかり。
白洲次郎の生涯、初のドラマ――製作・脚本・演出のこだわりにも並々ならぬものが感じられ、挿入されるJAZZとあいまって期待度は高い。28日(土)スタート。全3回。

最近は「草食系男子」がモテるらしい。
平和主義で優しくて、自己主張が強くない男=草食系男子の行動分析本や特集記事が目につく。いくつかのパターンがあれど、基本的にはリードするタイプではなく、協調性があることが特徴とか。
まったく納得がいかない。なにが草食系男子だ、と思う。中身も主張もない、こぎれいなだけの男のなにがいいのかわからない。

男たちよ、どうかプリンシプルを振りかざし、次郎のように生きてほしい。
――わたしたちは全力で反発し、あなたを愛するだろう。

白洲次郎 占領を背負った男 下 (講談社文庫)白洲次郎 占領を背負った男 下 (講談社文庫)

 
 

 

*1 グラビアだらけの『週刊プレイボーイ』は残る、という現実。

*2 作家・白洲正子はオードリー・へプバーン、ジャクリーン・オナシスや美智子様と並んで、わたしの永遠の憧れのレディのひとり。次郎と正子については、後日「女たちよ!」あたりでも触れてみたい。

*3 伊勢谷友介(1976-)は映画俳優。東京藝術大学美術学部大学院修士課程修了。芸大在学中にモデルとしての活動、およびアーティストグループ「カクト」の活動を開始した。
1998年、『ワンダフルライフ』で映画初出演。近年では『雪に願うこと』『嫌われ松子の一生『ハチミツとクローバー』(以上2006年)『サイドカーに犬『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(以上2007年)等。 2008年にはフェルナンド・メイレレス監督の『ブラインドネス』でハリウッドへ。