Salonette

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ベリ、チャーミング。


もう一度髪を切り、黒に戻した。
髪は一度切ると、どんどん短くしたくなる。
不精ではなく、実は長いほうがいろいろごまかしがきくのでそれをよしとしない、とか、顔を隠したくない、とか、そういう精神的なものの影響が大きい。
なにより清々とする。
すべてが白に、とたぶん、同じベクトル。
 
ひさしぶりに銀魂(アニメのほう)をリアルタイムで見る。
新クール、新しい主題歌。*
再び吉原を舞台とした長編がはじまった。
これはなに編とよばれているのだろう、月詠姐さんとその師匠、そして銀さんの「過去と妄執」が交錯する大人っぽい話。
冒頭の三味線がいい。
月詠の師匠にして“妄執の男”羽柴藤之助(地雷亜)がいい。
登場シーンで軽いジャブを撃たれ、終盤のひとことでKO。

「よそ見は/お前さんの方さ」

お前さん、という言葉がこんなに似合う役者さん、いまどきいないよ。シブイのにけだるいよ。なにこのけだるい対決(vs銀さん=杉田智和)。
さっそく旧友に調べてもらうと、演じていたのはやはりベテランの屋良有作
なんと、ちびまるこちゃんの父、ヒロシ役のひと。
た、たしかにけだるい。
 
いま読んでいる斉藤環の本のなかで、「男は目で恋し、女は耳で恋に落ちる」というワイアットの格言が紹介されていた。
たしかに、わたしは耳で、地雷亜がとてもすきになった。
すきになるひとはだいたい低いけだるいトーンで話すし、すきな役者もだいたい声がいい。
そういう女性は多いとおもう。
そういえば、白洲次郎がすきなのにも、伊勢谷友介の声の割合があまりに大きい。

視覚のイメージを所有するとき、主体は常にイメージを俯瞰するような上位に立っている。所有者なのだから当然だ。しかし、所有できない声=聴覚イメージに身を任せるとき、しばしば主体は「声」によって支配されることになる。・・・視覚イメージは距離感をもたらすが、聴覚イメージはこうした関係性を通じて、独特の親密さをもたらすのだろう。斉藤環『関係する女 所有する男』(講談社現代新書刊)

わたしはこの説に賛同する。
同時に、ここには男女の性差だけでなく、音楽と美術の謎も隠されているような気がしている。
よく言われることとして、ラジオが人びとを扇動する力(テレビはむしろそのうさんくささを暴いてしまう)についても触れられているが、ここで思い出すのはヒトラーオバマである。
ベリ、チャーミングな男が見たいと思ってヒトラーのビデオをたくさん見た、という佐野洋子の日記を思い出す。
演説がうまい男は、ベリ、チャーミング。

ところで佐野洋子はこの夏、白洲次郎のことも気にしていて、なぜ気にしたのかというと「いい男だったからだ」と書いている。
正直なひとだ。
正直なところ、わたしも、いくらいい声でもいい男でなくては恋に落ちないし、けっきょく、目人間か耳人間かの答えなど出やしないのだった。 

関係する女 所有する男 (講談社現代新書)

関係する女 所有する男 (講談社現代新書)

 

 

  * OPは9月9日にメジャーデビューしたばかりの3ピースロックバンドPrague(プラハ)が担当。新曲「Light Infection」は「曇天」(DOES, 2008)のようなシリアスで暗い曲調が、今回の長編にぴったりの予感。
ちょっぴりスガシカオ風味も?
DOESやmonobrightみたいにヒットしてほしい。