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師匠の背中

今夜見た銀魂(アニメ)は、最高傑作のひとつになるとおもう。
第180訓「大切な荷ほど重く背負い難い」。
先週の予告からそんな予感はあって、タイトルの毛筆もいつもより端正だし、新曲だし・・・過去話だし、まずいな、もうこれは泣いちゃうんだろうな、と覚悟はしていたのだ。

まず冒頭のミニマムなピアノの音がまずい。
モノクロームの墨絵のような――血だけが赤い屍だらけの凄惨な画面に、ふたつの美しい和音の連なりだけがかぶさる。
手負いの野良猫のように餌をむさぼる小さな銀時の視界に、突然現れる大きな手。
太く、やさしい声。

「屍を食らう鬼が出るときいて来てみれば・・・君がそう?」

松陽先生、山寺宏一さんだった。
あたたかかった。
コメディ映画で見せる多才ぶりばかりが目立つが、実は渋い声の役も多くて、しかもその声に包容力と茶目っ気がある。
大樹の木漏れ陽のようにあたたかい。
ああ、松陽先生だ、とおもった。

去っていく松陽の背中を黙って見つめる銀時。
そのまま同場面で始まるオープニング曲へつながってゆく。
雪のなかで佇む大人になった銀さんがなにを思うのか、せつなさがつのる。 
 
中盤、地雷亜と戦闘中の銀さんが「師匠」を語るとき、やはり場面はモノクロームに変わるのだ。
いわゆる「バトル」に静寂が満ち、爪弾くようなアコースティックギターの音だけが流れる

「てめーは背負う苦しみも/背負われる苦しみからも逃げた/ただの臆病者だ」
「てめーに師匠の名を語る資格はねェ」

松陽に背負われる銀時。
瞬間、少年のモノクロームの世界に色が満ちる。
すきなひとの壮絶な過去を打ち明けられて涙が止まらないような、そんな心持ち。
ラストシーンの苦い吐息のような「俺もだ」* と合わせて、余韻が深すぎる。

このお話、登場人物もお話も渋いのでどのくらい人気があるのか読みかねるが、わたしはとてもすきだ。
すきだけれど、とてもせつなくなる。
すきなひとのことをわかっているつもりで、ぜんぜん知らなくて、ある一定の線から先へは踏み込めないんだと突きつけられたときの絶望感に、それは似ていた。
 
 
 
……自分の愛が、こわい。

銀魂 シーズン其ノ四 8 [DVD]

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  * 服部全蔵のセリフ、
「俺ァ親父にゃ背負われてばかりで/そんなマネ(月詠が地雷亜を背負ったように)ついぞしてやれなんだ」
に応えて。
松陽の死の詳細は明かされてないが、なんらかの事件に巻き込まれ幕府側によって暗殺されている。
門下生の銀時、桂、高杉らはおそらく、これが動機となって攘夷戦争に身を投じた。