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ディスカバー、日本の夏

司馬遼太郎中原淳一あるいは四畳半の影響もあってか、最近はどうにも和に惹かれてしまう。
いっそうすものの着物を涼やかに着こなし日傘をさして歩きたいとすらおもうが、着付けができないので早々にあきらめ、簾をたらし風鈴を鳴らし冷たい緑茶をいれた部屋にこもって本を読んでいる。
けだるい午後。からみつく空気。梔子の甘い匂い。
低く、サラサーテの盤iPod)。
イメージは昭和初期の洋装の文学少女

いまほしいものといえば古風な扇風機だ。
今年はエアコンなしでいけるような気がする、と、いつもこの時期はおもうのだった。

 
というようなことを、実相寺映画を見ながら考えている。
もうまさに、そういう気分なのだ。
帝都物語』(1988)あたりから、『屋根裏の散歩者』(1992)、『D坂の殺人事件』(1998)、そして『姑獲鳥の夏』(2004)。『乱歩地獄』(2005)はまだ見ていない。

姑獲鳥の夏』は京極夏彦のデビュー作であり、長編推理小説百鬼夜行京極堂)シリーズ」の第一弾である。
舞台は昭和27年の東京。
作者の博覧強記ぶりを生かした文体と独特の怪奇ムード漂う世界観が、いろんな意味で一部のファンに大人気だ。
冷静に考えるとミステリとしてのトリックやストーリー展開はきわめて月並みなのだが、いかにも90年代的なトラウマオチはともかく、その耽美でロジカルな謎解きにうっとりした読者も多いだろう。
加えて、キャラクターの強烈な個性、関係性、過去の暗示が読者を惹きこむ。

京極夏彦は乱歩を継ぐものであり、日本のエドガー・ポーである。
映画版はその魅力を十分理解しており、和でありながらバロックな音楽(池辺晋一郎)や効果音、美術で、これでもかと非現実感を高めている。
いしだあゆみの狂乱に象徴される演劇風演出も目立ち、原作独特の芝居がかった台詞回しがうまく再現されている。
おそらく作品のメジャーさ、キャッチーさという観点から言えば後年の『魍魎の匣』(2008、原田眞人監督)のほうが上なのはわかりすぎるほどわかるのだが、『姑獲鳥』の密やかな、毒を孕んだ夏のイメージは、もう少し評価されていい。
猫、かわいいし。
  
 
 
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姑獲鳥の夏 (講談社ノベルス)姑獲鳥の夏 (講談社ノベルス)